夏至が過ぎ、気温もだんだんと上がり初夏の暑さを感じられるようになってきた6月26日(火)、岐阜県立森林文化アカデミーにて、岐阜県地域森林監理士養成研修を受けられている12名の研修生の方々へ、弊社代表古川より『「林業ビジネス概論と実践」~短期マーケティングと長期フォレスターの融合~』と題して講演をさせていただきました。

平成31年4月から施行を目指している森林経営管理法において、意欲と能力のある林業経営者の定義について様々な議論がなされていますが、岐阜県ではそれを自ら定義し、山林を適切に管理するための様々な取り組みをされています。

そして本日の参加者の皆様は、岐阜県独自の地域型フォレスター制度である「岐阜県地域森林監理士」を目指す方々でした。

岐阜県地域森林監理士とは、地域における森林の管理や経営に必要な専門的知識を持っており、市町村の林務行政の支援や民有林経営への助言などを行う岐阜県独自の人材のことです。

本日は、岐阜県地域森林監理士を目指す皆様に、経営管理の視点から地域型フォレスターとしての役割についてお話させていただきました。

 

地域型フォレスターの役割とは ―①短期マーケティング―

まず、フォレスターの短期的な役割として、木材の有効利用による収益をあげるために木の売り方を知らなければなりません。そこで他の講演でもお話させていただいている、林業マーケティング基本3要素(3C分析、消費の3要素、ライフサイクル)を紹介しました。あくまでも林業は生業である以上、収益性を生むためのビジネスの視点が必要ですから、自社を分析し、より戦略的に木を加工し、付加価値を付けて売っていく力が必要となります。その後、異業界のマーケティングがよくわかる3冊の本も紹介しました。

基本的な、マーケティングフレームを自分の物にして使いこなすことで、世の中の流れを知り、その上でオリジナルの戦略を考えていく事ができます。

 

地域型フォレスターの役割とは ―②長期フォレスター―

持続可能な森林をつくるために、フォレスターにとっての長期的な役割は、何に木を使うのかということを考えて長い目でのビジョンをつくることです。

講演では「出口(利用目的)あってこその目標林型」と話をさせていただきましたが、木または山をどう使いたいのかというビジョンをもって森林計画に取り組むということがフォレスターには求められるのではないかと思います。

例えば、高野山での林道設計は100年ではなく1000年もつかどうかという話になります。それはこれまで高野山には1200年の歴史があり、この先も1000年規模での森の使い方を考えることができるからです。

吉野であれば、「一般社団法人 吉野かわかみ社中」が500年の歴史ある吉野林業を、次の500年に繋ぐということで「NEXT500」という言葉を掲げています。

西粟倉村では、50年前に子や孫へと木を植えた人々の想いをつなぐために、あと50年間は村全体で挑戦を続けようということで「100年の森林構想」を掲げています。

このように、少なくとも100年程度のスケール感でビジョンを持って森林を管理していく人材が必要です。

 

地域型フォレスターの役割とは ―③行政と民間の両方を知る―

地域型フォレスターの理想は、行政の予算と民間企業の財務状況の両方を見ることのできる人材です。

その上で行政の支援すべきところと、民間企業が自費で賄う(投資する)ところの判断ができるようになることがポイントです。

例えば、広告宣伝費などは本来、民間企業側が出すべき費用です。しかし、行政がその費用を出してしまうことで中途半端な平等性が求められてしまい、結局それぞれの差別化が出来ずに個別の宣伝は実はできていないというのが現状ではないでしょうか。

行政側にはもっと基盤整備へ予算を回していただき、民間企業はその上で理念と利益を回していくための費用を投資する。

そういった「行政側がお金を出すべきところ」と「民間企業側がお金を出すべきところ」の判断ができると補助金に頼らなくてもよい経営ができるようになります。

 

行政と民間が一緒になって『夢』を実現するために

前述したように、行政と民間の協業と分担により森林ビジョン、つまり「夢」を実現していけるかどうかが今後を左右するカギです。

 

そこで今回は、行政と民間がまさに協業と分担により「夢」を実現させた例として、「茨城県立カシマサッカースタジアム」を紹介しました。こちらのスタジアムは、鹿島アントラーズ(サッカーJ1クラブチーム)のホームスタジアムでスタジアムは茨城県が所有し、運営管理は株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シーが行っています。

現在ロシアでサッカーワールドカップが開催されていますが、鹿島アントラーズからは3人の日本代表選手を輩出しているほどの強豪チームです。そんな鹿島アントラーズのホームスタジアムの設立の背景には行政と民間の協業と分担がありました。

工業地域として高度経済成長期から発展してきた鹿島でしたが、これからは工業だけでは持続できないと、サッカーと共に新しいまちづくりを進めるビジョンが策定されました。その後、スタジアム建設が進められたのですが、建設予定地には「先祖代々の土地を手放せない」という200人以上の地権者の方々がいました。そこで動いたのが行政職員でした。新しいまちづくりの「夢」を語り、地権者を説得して回られたそうです。その努力もあって、見事スタジアムは完成。その後は民間が運営をし、今では市民にとってなくてはならないものになっています。

 

このように行政は夢を掲げ、旗を振ることで基盤整備をし、その後は民間が主体的に運営をしていくことが必要で、これは林業施策に関しても同じことが言えるのではないでしょうか。そして、そもそも林業界で「夢」を持っている人が少ないのが問題です。

例えば、サッカーのJリーグは1993年の発足当初から、「100年構想」というものが掲げられており、これはサッカーのみならず、地域が主体となって、あらゆるスポーツを老若男女が楽しめる豊かな国を目指したいというJリーグの夢です。

林業界では、長野県松本市で弊社もメンバーとして共に活動をしている「ソマミチ」という一般社団法人があります。ソマミチではシェアフォレストという考え方をもって、みんなで遊べる森をつくったり、暮らし方を提案したりすることで「木を使う社会の仕組みをつくる。」という夢を掲げて取り組んでいます。

 

このように、夢を掲げて森と向き合い、その際に官民が正しく役割分担をすることで地域が主体的に課題解決を行っていくことが大切なのです。

 

参加者の声

【県職員:W様】

日頃凝り固まった世界で仕事をしていることを改めて思い知りました。

純粋に面白かったです。

 

【建築会社:T様】

大変ためになりました。物事を科学的に考えることは自分なりに行っていましたが、レベルの違いに感動しました。スッキリした気分になる話でした。

 

【素材生産業者:T様】

内容は非常に分かりやすく、今後の自分のためになりました。

また、林業に欠けているものをズバリ言い当てられていたと思います。

経営ではなく運営であったり、顧客が誰であるのかも理解していない場合が多いと思います。

 

さいごに

林業×マーケティング×リクルートに係るご相談・講演依頼等は、お問合せフォームからお受けしています。ご希望の時期や内容について、お問合せフォームからご連絡いただければ幸いです。

過去の講演実績は以下のURLからご覧いただけますので、併せてご参考ください。

https://chiikino.jp/blog/?page_id=193

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Posted by wpmaster on 火曜日 6月 26, 2018 Under すべての記事, 講演&研修 報告
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