1月7日(土)、キャンパスプラザ京都にて第6回シンポジウム「ライフ・アンド・フォレスト」が開催されました。
主催NPOの理事も務める弊社の岩井が、企画から、広報、当日コーディネーターとして参加いたしました。
2014年の第3回から数えて4年連続のコーディネートとなります。
★当日の様子はfacebookライブ配信から動画でご覧になれます。
前編 https://www.facebook.com/292740190784275/videos/1333819246676359/
後編 https://www.facebook.com/292740190784275/videos/1333916133333337/
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◆第6回「ライフ・アンド・フォレスト」◆
テーマ:広葉樹のある暮らし~森のデザイン、木のデザイン~
講演
・「広葉樹のものづくり」有賀建具店 有賀 恵一 氏
・「広葉樹の森づくり」 有限会社根尾開発 小澤 建司 氏
・「広葉樹のエネルギー」株式会社Hibana 松田 直子 氏
【日時】2017年1月7日(土)13:30~17:00
【場所】キャンパスプラザ京都4階 第3講義室
【主催】NPO法人才の木、NPO法人京都・森と住まい百年の会
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会場はほぼ満員。年始にもかかわらず100名以上の方が来場し、関心の高さをうかがわせました。
日本の林業と言えば針葉樹造林が主体であり、国内での広葉樹需要は輸入材に頼っているのが現状ですが、
今回は「広葉樹」にスポットを当て、広葉樹の面白さと課題、「森のデザイン」と「木のデザイン」のあり方について議論を深め、これからの日本の林業の新たな可能性を探りました。
まず最初に、三名のゲストの講演についてお伝えしていきます。
【1】「広葉樹のものづくり」 有賀建具店 有賀恵一氏
まずは、広葉樹のものづくりとして有賀建具店の有賀恵一氏がご登壇。
長野県伊那市から朝一番で車を出して京都入りしていただき、会場のあちこちに素敵な家具、サンプル木材を展示していただきました。
60種類以上の針葉樹や広葉樹を扱い、建具、キッチン、家具等を製作している有賀氏。
完全受注で作られる家具は唯一無二です。
端材を燃料とする、ペチカのある工房で。若手を含めた5名の職人から1つひとつの作品は作られています。
父代から続く建具職人の道を継いだ有賀氏は、初めは単一樹種で建具を仕上げるよう教え込まれましたが、1人のお客さまの
「失敗しても良いから様々な樹種でドアを作ってほしい!」という言葉から、多樹種の広葉樹を使った作品を手掛けるようになりました。
素材の調達は、チップ工場の丸太をはじめ、埋もれ木や工事現場の除伐材、素材生産者から直接購入、原木市場と
多様な調達先から「職人に見放された木」を集めておられます。
木材の乾燥は天然乾燥にこだわり、雨ざらしにして、木材内部の”アク”を抜くことで製材した時に美しい色が出るということも教えていただきました。
お客さまの要望を伺った上で、最終的な製品の樹種の並べ方は職人に任されており、職人によって風合いが異なる製品が生まれます。
しかしながら、塗装なしで自然の木の色をそのまま使用した製品は、どのような並びでも違和感なく仕上がるそうです。
お話の最後には日本の木の楽しみ方を教えていただきました。
「色、重さ、手触り、香り、味」が有賀氏の考える木の見分け方であり楽しみ方。
例えば、サクラなどのバラ科の樹種は良い香りがするいっぽう、ニセアカシヤやキハダはあまり良い香りがしない、
製材時に口に入るおが粉の味も、樹種によって違うなど、
五感を使った仕事の様子を語っていただきました。
多様な木を使ったドア。着色は一切しておらず、自然の色を活かした、落ち着きがありながら個性的なドアです。
椅子の素材はなんとキリ。タンスに使われる場面はあれど、椅子に使った事例はほとんど見かけません。
非常に軽くて丈夫なので、力の弱い方でも扱いやすい家具になるとのことです。
様々な樹種を組みわ合せた、カラフルな「いろいろタンス」。樹種の組み合わせは様々。
(弊社も当日1つ購入させていただき、オフィスに新しい木材のお仲間が加わりました。)
「トチの引き出しに○○入ってるから~」といった会話が想像できますね。樹種判別能力も高まる効果も期待できます。
【2】「広葉樹の森づくり」 (有)根尾開発 小澤建司氏
続いて岐阜県本巣市から、広葉樹の森づくりについて(有)根尾開発の小澤建司氏からのご講演です。
(小澤氏は、弊社主催の「林業経営実践研究会」in名古屋 のメンバーでもあります)
まず冒頭に、林業をやっていくには”歴史”が重要であり、次世代に繋げられるように魅力ある山づくりを目指しているというお話がありました。
そのために小澤氏の後継者として男の子2人は必要だと思っていたところ、いつのまにか5人のお子さんに恵まれたという自己紹介が、参加者の笑いを誘い会場はなごやかムードに。
ご長男は、なんと5歳からユンボ運転の練習中で、課題を与えて見守り、
「自分で考えて成長する」機会を大事にしているとのことでした。
そんな小澤氏の会社での人材育成指針もユニークです。
①完全出来高制の造林
造林部は、地拵えから伐採までを、植栽した人が担当となり管理、その出来高によって給与が決まるというものです。
枝打ち作業等も、各々がより効率的に現場を管理できるよう工夫するとのことでした。
②架線集材の復活
会社設立以来行っていなかった架線集材に平成25年から挑戦。
65歳のベテラン親方から39歳の若手社員が技術を後継し、その後は毎年架線集材を行う現場を計画し、素材生産を行っています。
先人の技術を途絶えさせてはいけないという小澤氏の考えもうかがわれます。
事務部、素材生産部、造林部、造園部、土木部がある(有)根尾開発では、
地域に貢献するさまざまな事業への「チャレンジ」の精神も大事にしています。
(Neo Woodsの積み木)
その1つの活動に「Neo Woods」プロジェクトがあります。
木材生産を(有)根尾開発、製材・乾燥を(株)カネモク、製造・販売・普及をオークヴィレッジ(株)が行う三者協定の広葉樹活用連携プロジェクトです。
これまで使われていなかった「規格外広葉樹」を活用し、根尾のブランドで木製品を送り出しています。
素材生産をする者が、自分達で育て伐採した木がどのような形に生まれ変わったかを、最後まで見届けることが何よりも重要であるとおっしゃっていました。
(有)根尾開発の広葉樹施業は択伐と皆伐の2種類。
3,000haの社有林の内、2,000haを占める広葉樹林を現場の状況や、需要先ニーズに合わせて施業を使い分けています。
また、一度手を加えた森は、どれくらいの大きさ、樹種の木がどれだけあるか、というデータを蓄積し、注文があった場合にすぐに伐り出せる「在庫化」を進めています。
最後に、今後は人材育成、販路開拓、地域連携により力を入れ、丁寧な仕事をして、次世代に繋がる山を作るとのビジョンを示し、
「お話だけでは伝わりにくい事も多いので、是非根尾の森を見に来てください、案内します!」という言葉で締められました。
【3】「広葉樹のエネルギー」 (株)Hibana 松田直子氏
最後に、(株)Hibanaの松田直子氏。
木質バイオマスに関する調査、普及啓発、薪炭や木製品の販売、ペレットストーブやボイラー等の導入支援、商品開発など、多岐にわたる事業を手掛けています。
京都市の寺町二条にある「京都ペレット町家ヒノコ」を拠点に、木と火のあるくらしを発信しています。
松田氏は、大学時代にアジア各国を訪問した際に、自分が日本の森のことを知らないこと気が付き、修士論文では木質バイオマスの地域利用をテーマとしたことが現在の事業に繋がっています。
講演の冒頭には、まず会場の皆さんに質問を。
「木の物を持ち歩いていますか?」
「木の家具を使っていますか?」
「では、薪などの木質燃料を使っていますか?」
木の物を持ち歩いている人はさすが、ライフ・アンド・フォレストということもあり参加者の大多数を占めていましたが、
薪などのエネルギー利用を日常的にしている人は意外にも少ないことに気が付かされます。
そして、針葉樹人工林の間伐遅れという問題に対して、
広葉樹はガスや石油へのエネルギー転換により里山が手入れされない課題を抱えていることに触れ、
火のある暮らしや小さな脱プラスチック運動をすすめるHibanaの活動をご紹介いただきました。
①薪、②ペレット、③炭、④チップ、という4大木質エネルギーの中から、特に身近に使いやすい①~③の燃料について、
ストーブの仕組みや燃料の特性について、わかりやすくご解説いただき、
さらに、「火」には単に照明や暖房の機能だけではなく、
人が集まる場を創造し、火を囲み考え議論する環境が新しい発見を生み出すという効果についても解説いただきました。
2000年以降、ペレットストーブやペレット製造の国産化が進み、各地域ごとに事業者が「ご当地型エネルギー」の商品展開しているお話は興味深く、
「街中でもこれだけ木質の燃料は使えるのだ、ということを感じてほしい」という松田氏の言葉には、
京都の街で事業を展開し、自身も火や木のある暮らしを実践し、ライフワークとしているからこそ伝わる熱がありました。
【4】パネルディスカッション
第二部は、まず初めに針葉樹と広葉樹の違いについて、樹木細胞学の視点から、
京都大学大学院の高部圭司教授からご解説いただき、その後にパネルディスカッションに移りました。
参加者から集めた質問票と、コーディネーターからの質問にパネラーが答える形式でパネルディスカッションは進行しました。
一部をご紹介します。
質問①:「一番好きな木は?」
有賀氏:みんな好きだが、色の濃い木「ホンウルシ」、「チャンチン」、「オニグルミ」などが好き。また、針葉樹よりも手がかかるからこそ、広葉樹が好き。
小澤氏:紅葉の色が美しい「カエデ」が好きです。長男の名前も「楓」にしました。ちなみにスラムダンク世代には馴染みがあると思います。
松田氏:「どんぐり」がなる木と、私の名字にもある「マツ」が好きです。どんぐりと松ぼっくりはシルエットが可愛いく、またエネルギーの視点から見て松ぼっくりは着火剤としても使えます。
質問②:「皆さんが思う、針葉樹と広葉樹の違いは?」
松田氏:広葉樹は多様性がある。国内でも、海外でも種類が多く、色も多様。エネルギーの視点では、針葉樹は火の着きが良いがすぐ燃え尽きる。広葉樹は火の持ちが良い特徴があります。
小澤氏:(森づくりの視点から見ると)針葉樹は人工林が多く、最後に伐採するまでずっと手をかけなくてはいけない。広葉樹(天然林)はある程度人の手を加えることも必要であるが、自然に成長する力が強い。また、広葉樹は樹種による値段の違いが大きく、変動もあり、博打的なところがあり、伐採の方法も多様で施業が確立していないという難しさがありますね。
有賀氏:まず一番に重さが違います。そして、広葉樹は狂いが大きく手がかかり、針葉樹はあまり狂わない。広葉樹は手がかかるがやはり好きです。
質問③「有賀氏に質問。山まで原木仕入に行くことは多いのか?」
有賀氏:山を見て買うことはほとんどしないが、山を見に行くこと自体はあります。行くとしたら近くの山です。銘木等にこだわらないので、とにかく山から木を出しましょう、なるべく多く使いましょう、という視点で原木は選んで購入しています。
質問④「小澤氏に質問。広葉樹の育成について、どのような樹種をどれくらいまで育てるのか?」
小澤氏:まず広葉樹の施業は、今のところ確立したものは一つもありません。行政や研究所に聞いても分からないので手探りです。作業班には針葉樹も広葉樹も、最初は悪いものから順番に伐るように伝えています。しかし、中には良い材も伐り出して、バランスを合わせています。また、できるだけ真っ直ぐに育つように択伐しています。木と木の間の距離を年ごとに変えながら成長の様子を見て、データを蓄積している状態。H25年に整備した場所は、注文があった際にすぐ伐採できるように、樹種と胸高直径、材積量を把握しています。
質問⑤「小澤氏に質問。現在日本は海外旅行者が増えているが、森林に招待して日本の林業を知ってもらい、海外に販路を広げるようなビジネスプランを考えていたりするか?」
小澤氏:今のところは考えていません。地元のことを優先して考えています。風土的に根尾と海外が合うかが分からないので、海外への販路よりも地元に素材は販売するようにしています。虫やカビの対策をするためにも、伐採したらすぐ加工が出来るよう、岐阜県内で何とかしたいと考えています。
質問⑥「木のある暮らしとして、どのような状態が理想的で心地よいと考えるか?」
有賀氏:意識しないである事が最も良い事、手で触れることが大事だと考えます。
小澤氏:有賀さんと似ていますが、身近にある事が最も良い。青山スパイラルでNeo Woodsの展示を行った際に見学に行きましたが、東京では土に触る機会はありません。現在、実は東京おもちゃ美術館との企画を進めていますが、おもちゃ美術館では生きている木に触ることはできません。自然の中で自分で工夫して遊ぶということが大事だと考えます。
松田氏:お二方と同じで身近で使うという状態がもっとも理想的だと思います。しかし、周りでペレットストーブ等を使用している方は少ないので、木のある暮らしは運動だと思っています。脱プラ、脱石油製品の運動であり、石油系由来のものを木に変えていくことが重要だと考えます。
質問⑦「松田氏に質問。エンドユーザーにエネルギーについて伝える際に気をつけている点は?」
松田氏:まずは、見えるということが一番大事です。実物に加えて、紙媒体、インターネットを使って情報発信します。また、小遣い稼ぎができるという切り口で関わる人を増やしていくことが重要で、そうすれば広がっていきます。ペレットの場合、流通が課題になります。使い続ける、消費するものなので、流通コストをどう下げるかが課題の1つとなっています。
質問⑧「有賀氏と小澤氏に質問。若い後継者がいるとのことでしたが、職人やその道のプロになるために必要なセンスやスキルはありますか?」
有賀氏:必要なセンスはありません。大体どういった人でも出来ます。しかし、作り手が「この木は狂うからだめだ」と決めつけて使わない材を選ぶ職人が多い中、使い手に多少の伸び縮みがある事を承知していただいくと充分使える木材がある事を理解し、考える職人を増やさなくてはいけません。現在5人の職人がいて、今まで独立したのは8人、そのうち女性は2人です。独立したみなさんは仕事があるようでお手伝いを依頼すると断られることもあります(笑)。
小澤氏:基本的に、山に興味がある人ではないといけないと思います。自社の魅力を発信し、興味がある人に来てもらわなければ技術力が付くまでに時間がかかります。最後は楽しく仕事が出来るような仕組みが出来れば活性化になります。素直な子が良いですね、現在社員募集中です。
質問⑨「素材生産側、木材加工側にそれぞれ期待することは?」
松田氏:「森のデザイン」である山側に期待することは、人材をどう育てるかに尽きると思います。みんなで参加できる企画を増やして、山に興味を持ってもらう人を増やすことが我々の仕事ですね。
有賀氏:小澤氏にやってもらいたいことは、真っ直ぐな木を育てていただきたい。曲がっている木はやはり使いづらい。山の状況もあり、難しい事ではあるが、是非頑張っていただきたいです。
小澤氏:急峻で雪が多い地域は真っ直ぐ広葉樹を育てることは難しいが、早めに手をかけて育てていくので、有賀氏にも、広葉樹に期待していただきたい。加工側の人には、山に来てもらって、立木の状況から見ていただき、この1本をどうしたいかというような愛着を大事にしてもらいたいです。市場ではなく、山から搬出される場を見ていただき、木そのものだけではない、雰囲気も大事にしてもらいたいですね。
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会場からの質問も多く、熱気のあるシンポジウムとなりました。
今回はメインテーマを「広葉樹のある暮らし」としながら、
サブタイトルである森のデザイン(施業、森林経営)、そして木のデザイン(利用、加工)について議論を深めました。
気候に恵まれ、多種多様な樹木が生育する日本の森林のポテンシャルを感じるとともに、
その価値を享受し大いに活かすためには、
●素材からエネルギーまでのカスケード利用
●適材適所での活用
をポイントにしながら、暮らしをつくること、
それが当たり前の存在になることが、地域文化ひいては日本の木材文化を作って行くことだと感じられました。
これまで未知であった広葉樹利用にも果敢に「チャレンジ」すること、
そして日本の森林のグランドデザインを、川上~川下が共に描いていくことに、大きな可能性を感じます。
そのために今後も、人が集い、お互いに理解を深めて議論する場を創出して参りたいと思います。
今回のシンポジウム開催に当たっては、ご登壇いただいた皆様、関係者・運営スタッフの皆様、そしてご来場者の皆様に心より感謝申し上げます。
今後もご期待ください。