今回は、群馬県沼田市で開催された『【森林ビジョン講演会】「森と人が、支えあう未来へ。―森林文化都市沼田市の森林ビジョンを考える―」』の様子をご報告します。
本講演会は、令和8年3月25日(水)の午後に、テラス沼田5階Waltzホール(議場)にて開催され、どなたでも参加可能な開かれた形で実施されました。
当日は約70名が参加し、一般の方も多く見られ、日頃から森林への想いを持って生活されている方々の関心の高さがうかがえる場となりました。
また、沼田市は全国に先駆けて平成2年に「森林文化都市」を制定してきた自治体です。
さらに昨年度にはアクションプランを策定し、来年度には新たな森林ビジョンの策定が予定されています。
今回の講演会は、そのビジョン策定に向けた“キックオフ”としての意味合いを持つものでした。
当日は、弊社代表・古川が基調講演およびパネルディスカッションの進行を務めました。
ビジョンとマーケットから森林を捉え直す

古川からの基調講演では、「森林は課題解決の対象ではなく、価値創造の起点である」という視点から話題提供を行いました。
森林・林業は、担い手不足や採算性といった課題から語られることが多い分野です。
しかし、課題だけでは人もお金も動きません。重要なのは、
- どんな森を目指すのか(ビジョン)
- 誰に価値を届けるのか(マーケット)
特に林業は、木材の買い手だけでなく、山林所有者、行政、地域住民など、多様な主体が関わります。
「何が課題か」という視点で業界を見ることも多いですが「どうありたいか」を考え私益から公益へ、ビジョンで示して皆で動いていきましょうという言葉をお伝えしました。
「森を科学する」――ゾーニングという視点

続いて、フォレスターズ株式会社の小森氏より「森を科学する―ゾーニングという考え方―」と題した基調講演が行われました。
まずは「私たちが思い浮かべる“山”は、本当に同じものなのか?」という投げかけから始まりました。
具体的に沼田市にある森林において「吹割の滝周辺の森」(渓畔林)、「玉原高原の森」(天然林)、「利根沼田森林組合の間伐現場の森」(人工林)を挙げ、
同じ“森林”でも、その性質や役割は大きく異なることや、さらに身近なところで普段の生活県内でも住宅地・商業地・工業地などに分けられているように、森林もまた役割ごとに整理されて初めて機能するということをお伝えした上で、この“ゾーニング”の考え方が、これからの森林ビジョンには不可欠であると示されました。
さらに重要なのは、その判断の根拠です。
地形、土壌、資源量、災害リスク、生態系といった科学的な情報(科学知)だけでは不十分であり、現場の経験(現場知)、地域の歴史や文化(地域知)を重ねていくことで、初めて実効性のあるビジョンになる。また、ゾーニングは単なる分類ではなく、限られた予算や人材をどこに投資するかを決めるための意思決定の基盤でもあります。
森林を“なんとなく守る”から、“理由をもって使い分ける”へ。その転換の重要性が共有されました。
森林文化をどう実装するか(パネルディスカッション)

後半のパネルディスカッションでは、これらの講演を踏まえ、「森林文化都市」をどう実装していくかについて議論が行われました。市長からは、率直に「経済が動いていない」という現状認識が示される一方で、これまで地域が積み上げてきた林業の基盤やプレーヤーが残っていることへの可能性も語られました。
「森林林業を再生させない限り、地域の再生はない」という直感的な危機感とともに、令和6年度に策定したアクションプランに基づく取組がすでに動き出していることも共有され、今回の講演会が次の一歩として位置づけられていることが印象的でした。
後半の議論は、単なる森林整備にとどまらず、地域全体の産業構造へと広がっていきます。例えば、地域内で木材を加工し、付加価値をつけて出していくこと。
かつて木工のまちとして栄えた歴史を踏まえ、再び「素材から加工へ」という流れを取り戻せないかという視点。あるいは農業や観光と組み合わせ、地域資源全体で価値を生み出す循環の必要性。森林を単体で考えるのではなく、まちづくりの中核として捉え直すことの重要性が浮き彫りになりました。
また、ゾーニングの議論と接続し、森林の成長量や供給可能量を把握した上で、どこまで生産を伸ばすのか、どこに投資するのかを判断していく“経済的な設計”の必要性も示されました。
過去・現在・未来をつなぐビジョンへ
会場からの意見交換では、地域の歴史や実体験に基づく声も多く上がりました。かつての林業の賑わい、木材流通の記憶、そして現在の停滞への実感。
一方で、農業や観光との連携、地域資源の可能性への期待も語られ、森林文化都市という理念が、単なるスローガンではなく、地域の中に確かに根付いていることも感じられました。
小森氏の言葉にもあったように、ビジョンは未来志向であると同時に、過去と現在の共通認識の上に成り立つものです。
そして古川からは、「素材力・加工力・営業力の3つが揃って初めて木材は売れる」という実務的な視点とともに、地域内外のプレーヤーをつなぎながら設計していく重要性が改めて共有されました。
次の森林ビジョンへ向けて

沼田市には、「森林文化都市」という長年の積み重ねがあります。そして今回の講演会には、その価値を次につなげようとする多くの人が集まりました。
来年度に森林ビジョンを策定されるということもあり、「森林文化都市」としての大きな転換点になると感じられた講演会になったのではないでしょうか。








