令和6年10月16日(水)、林野庁近畿中国森林管理局 桜ノ宮合同庁舎で開催されている「木造建築の架構と形態の魅力展」における「木を建てる 講演会」にて、弊社代表 古川がコーディネーターとして登壇いたしました。

 

 

主催である大阪府建築士会 岡本森廣会長の開会挨拶、近畿中国森林管理局 高橋局長の趣旨説明を経て、古川がトップバッターで話題提供をさせていただきました。

 

プロローグとして、古川から話題提供

 

古川の講演テーマは、
「都市木造・木質化のために必要な森林(地方)からの発信と関係づくりを考える」

 

森林・林業への道を志した源である、故郷東京都町田市と学生時代の奈良県川上村での原体験をお伝えしながら、SDGs、脱炭素時代とはいうが、なぜ今森林・林業なのか?
林業、木材の表現を、ブランド牛、魚、ワインのように表現できるほどの親近感があるか?
そもそも、自分は、川上~川下、業界の中、どの位置にいるのか?
日本には様々な森林がいて、色んな林業があって、多種多様なプレーヤーがいるが、知っているか?

 

そして、建築士の皆さんは自分の位置を認識して、自分たちを木材を使うのに、山とのつながりを表現できているか?

 

このような問いかけをしながら、表現の1つの事例として、弊社の「ちいきのBAR 峠」のストーリー、設計のポイントなどをご紹介させていただきました。

 

古川による、アイスブレイクとなる話題提供、そして皆さまへのご提案から、講演がスタートです!

 

 

 

 

林業、木材、建築 各分野で活躍される登壇者の講演

 

 

1)笹山寿樹 様(宮崎県山村・木材振興課みやざきスギ活用推進課長)

「宮崎県の林業・木材産業の現状と木造化・木質化の取組」

 

宮崎県の森林・林業の概要から、林業政策、飫肥杉の特性や、先達て設立した川上~川下の連携協議会のお話を聞かせていただきました。

 

33年間、スギ丸太生産量が全国一位の宮崎県。

 

都道府県初の再造林に関する条例「宮崎県再造林推進条例」が7月に施行され、「産官学と県民が一丸となって再造林に取り組む”宮崎モデル”」構築を目指し、皆伐再造林による持続可能な循環型林業を目指しています。

 

また、民間企業の連携による「みやざき木の建築推進協議会」も令和6年に設立され、木造化・木質化のための木材供給体制構築強化も推進されています。

 

林業の先進的な地域であり、今後も動向から目が離せない都道府県の1つであることは、間違いありません。

我々もぜひコミットして協業できることがあればと思う内容の講演でした。

 

2)足立正智 様(一般社団法人島根県建築士会 前会長)

「島根の暮らしと木の文化 ~木とともに生きる~」

 

建築士であり、森林所有者でもあり、小さい頃から森林に親しんできた足立様。
島根県での建築事例、木造塾を開催する中で感じてきたことをお話しされました。

 

木材の流通や品質など供給側の課題、そして建築側の木材知識の薄さによる利用側の課題。

双方の価値観にミスマッチがあり、解決するには「ストック」「品質基準と性能表示」「標準寸法を決める」、そのうえでのサプライチェーン構築が必要だという問題提起をされました。

 

建築側も木を理解し、供給側も建築に歩み寄り、「どんな材が必要なのか」ということを明確にすること、という言葉で締めくくられました。

 

こういった建築士の方がいらっしゃることは、とても頼もしいです。
一方で、このようなことを知らない建築士の方がまだまだいるであろうことに驚いたのも、正直なところです。
どんどんコミュニケーションを深め協働して、共に変えていきたいですね。

 

3)稲山正弘 様(東京大学名誉教授)

「木造建築の架構と形態の魅力」

 

この特別展のメインキーパーソンであり、現代の木構造の第一人者、稲山先生。

稲山先生のお話を目的に参加された方も多かったのではないでしょうか。

 

業界では超有名、一般の人々でも知っている建築事例たちの解説。
意匠設計士にフォーカスされがちな建築事例ですが、あれもこれも稲山先生が木構造に関わっておられました。

 

ダイナミックかつ機能的、美しい木構造事例の数々。
構造を意匠的に魅せる、まさに「架構と形態の魅力」。

 

地域の木材をいかに中大規模建築物の新たな木構造事例にしていくか。
設計の方法や取り入れた工法、材料についてなど実務メインでしたが、在来軸組工法を利用して創意工夫で木構造の中大規模建築を可能にしていく実践される具体的なお話は、林業木材側としては発展的な建築の考え方を知ることができる貴重な機会となりましたし、参加されていた建築士の皆さまにとっては実践につながる学びとともに非常に刺激になったのではないでしょうか。

 

【稲山正弘先生が木構造を手掛けた事例(ほんの一部抜粋)】
著作権の関係があるため、リンク先をご確認ください。

 

・東急池上線戸越銀座駅

2018年 奨励賞 東急池上線戸越銀座駅

 

・北沢建築

北沢建築


高級車CMやミュージックビデオなどでも使用されています。

 

・岐阜県立飛騨牛記念館

岐阜県立飛騨牛記念館 / Hida Beef Cattle Memorial Museum

 

・屋久島庁舎

屋久島町庁舎

 

その他、本当にまだまだたくさんあるのですが、林業関係に馴染みのあるところでは、「岐阜県立森林文化アカデミー」のアカデミーセンター棟、テクニカルセンター棟なども稲山先生が木構造を手掛けておられます。

 

建築写真を見ているだけでも旅をしているようで、わくわくが止まりませんでした。
一方で、このすばらしい建築を、山からつながった総合的な作品にするにはどうしたらいいか?
自分たちへの重要な問いを再確認する時間でもありました。

 

4)川井秀一 様(京都大学名誉教授)

 

「スギ材を活かして健康で快適な空間をつくる」

 

講演の最後は、こちらは木材学の大家(たいか)、京都大学名誉教授の川井秀一先生です。

弊社の第一号社員も、京都大学農学部在学時に大変お世話になりました。

 

川井先生からは、学術的視点から「内装材としてのスギの健康効果の高さ」についてお話をいただきました。

 

スギの木口面を空気に触れさせると、空気中の有害物質を吸着する性質=スギの空気浄化性能(健康効果)に着目し、木口面を増やすスリット加工を施した「スギ木口スリット材」を内装材に使用する試みを、長年取り組まれています。

 

「杉スリット」として商品化もされています。
https://www.sugislit.com/

 

スリット材を内装に使用した場合の空気浄化効果、健康効果などについての実験データ分析結果を解説されたのですが、数字で示されると客観的データしてスギの良さをより伝えやすくなりますね。
最近は、タバコの臭いの軽減効果についても実証実験をされて一定の結果が出たようです。

 

街の空間、暮らしの空間、スギ材が増えたら、健康効果で幸福度もあがりそうですね。

先生が粘り強くスギに向き合い続けている姿勢にも、心打たれました。

 

 

パネルディスカッション

 

講演後はパネルディスカッションが行われ、古川がコーディネーターを務めさせていたただきました。

 

古川から

「『木で建てる』ための、あなたの理想形は?」

 

という問いが投げかけられ、林業、木材、設計、それぞれの視点からの回答が非常に興味深かったです。

 

・国土保全、災害防止、水源涵養を発揮するために森林整備する中で産出された木材を活用するという林業の視点。

・木造の懐の深さ、木材は構造、燃料などいろいろなかたちや姿があり、それが人間と通じるところがあると感じる。

・木は工業製品ではなく、コピーではなく、ゆらぎがある。そのゆらぎが脳波に残ると聞いたが、本当にそうだと思った。

 

<稲山先生>

・内装が木でも構造がRCとかたくさんあるが、東大寺とか法隆寺とかあるしできないわけがないと、木造をするようになった。

・昔はRC主流だったが、今は木構造の潮流があり、RC構造専門の人にも広げていきたい、それが役割。

・とにかく木が好き、木を活かしたい。

・在来軸組工法をうまく使えば、中大規模建築はできる!RCに頼らなくてもできるし、特殊金物や特殊材料を使わずに、RCよりも安くできる。国産材でできる在来軸組み工法の中大規模建築をさらに広げていきたい。

 

<川井先生>

・スギの話をしたけれど、もちろんヒノキも大好きです。

・国産材供給が40%だが、60%くらいには上げたい。

・生産量重視の再造林もしない粗放な林業に負けて価格競争に負けているのが悔しい。

・日本固有のスギ、ヒノキの特長で戦っていけたらと思っている。

 

時間の関係でディスカッションする前にタイムアップになってしまいましたが、非常に示唆に富む言葉たちをいただくことができました。

 

 

最後に

 

一般社団法人大阪府木材連合会
津田潮会長より、最後の言葉をいただき、閉会となりました。

「木の魅力、木の高級感、アピアランス、求心力…これら木材の力が、皆さんのお仕事に役にたつと確信して、閉会の言葉といたします。」

 

端的で、素敵な表現ですね。

林業界、木材業界の皆さんも、こうやって木を伝えるための表現を当事者だからこそ紡いでいっていただきたいです。

 

 

閉会後は、稲山先生と木構造の模型を前に、意気投合!(恐縮ですが…)

 

稲山先生も、木構造建築の立場から、山からどうやって繋ぐか、どうしたら地域にとって良くなるか、課題に思い、広い視野で考えていらっしゃいました。

 

また、折に触れてご一緒させていただきたいです。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

 

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この日はコーディネーターでしたが、講演、ファシリテーター(司会進行)など、ご好評いただいています。

ご相談から承りますので、ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

 

私たちも、今後もこうやって様々な皆さまと出会っていけましたら、幸せです。

 

Posted by wpmaster on 日曜日 10月 20, 2024 Under — セミナー、研修、講演のお知らせ, すべての記事, セミナー報告, 講演&研修 報告

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